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夏の家づくり

家の作りやうは、夏をむねとすべし

家づくりを生業とする人間ならば一度は聞いたことのある言葉です。

盛夏を迎えるなか、鎌倉時代末期に記された「徒然草」にある一文について考えてみました。

徒然草

鎌倉時代末期に兼好法師によって書かれた全244段からなる短編随筆集です。

つれづれなるままに日常の他愛のない事象をそこはかとなく書き綴ったと冒頭
にある書でその時代にどの様な考え方を持って暮らしを営んでいたかが伺える
資料の一つとされています。

鴨長明の「方丈記」、清少納言の「枕草子」と並んで日本三大随筆とされる書物
なので学生時代の古文で習われた方も多いと思います。

そんな書物の中に、住まいに触れている箇所があります。

第55段です。

以下に原文と現代文(意訳)を抜き出してみます。

第55段 家の作りやうは、夏をむねとすべし。

家の作りやうは、夏をむねとすべし。
冬は、いかなる所にも住まる。暑き比わろき住居は、堪へ難き事なり。

深き水は、涼しげなし。浅くて流れたる、遥かに涼し。

細かなる物を見るに、遣戸は、蔀の間よりも明し。

天井の高きは、冬寒く、燈暗し。

造作は、用なき所を作りたる、見るも面白く、万の用にも立ちてよしとぞ、人の定め合ひ侍りし。

現代文-意訳-

家の作りは、夏を基本とするべきだ。
冬はどのような場所にも住める。暑い頃に悪い住居はたえ難い。

深い池は涼しそうではない。浅くても流れる水が遥かに涼しく感じる。

引戸の方が跳上げ式の板戸より部屋が明るくなるので良い。

天井の高い部屋は冬寒く壁からの燈は暗くなる。

家の造りは特に必要ない箇所を造っておいて良い。
目の保養になるし、いざという時に役に立つ事があるかも知れないと、人々が語り合っている。

鎌倉時代の気候

鎌倉時代末期の気候は、現代から過去2000年を通して最も暖かかった中世温暖期にありました。
そんな中でエアコンや送風機なしで高温多湿の中で暮らしていたことになります。

このような背景ですから、必然的に夏の暑さを避けるような家づくりを基本とする
考え方が生まれたのでしょう。

一方、現代社会

エアコンや送風機の発明により簡単に涼を得られる様になりましたが、その一方で
大量の室外機による熱の排出や、コンクリート・アスファルトによる熱の照り返しで
体感する気温は中世温暖期を遥かに上回っているのではないでしょうか。

文明の利器の恩恵に与ることは否定しません。
しかしながら、この辺りで一旦昔を振り返るのも大事なのではないでしょうか。

まとめ

高気密高断熱のみに眼を奪われるのではなく、風の抜け方や作庭、日陰の作り方
など建築的工夫により暮らし方は膨らみます。

「家の作りやうは、夏をむねとすべし」

徒然草のこの一文は、家づくりの基本を記しただけでなく、広い視野で土地や
地域を観察し、建物や暮らしに反映させるんだよと教えてくれている様です。
当事務所では、外界と断絶した変動のない空間を創るのも一つの回答ですが、
外から得られるモノで丁寧に空間を形成し、心豊な暮らしの下地を整えることが大切だと考えています。

暮らしについて色々とお考えの方は、お気軽にご相談ください。

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