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傾斜地(斜面)の家づくり-瀬戸内海を望む高台-

傾斜地(斜面)に建つ家-建築例(見学可能)

傾斜地:意味-土地の表面が水平面に対してある角度をもっているような土地。傾斜している土地。

斜面 :傾いている面。垂直でも水平でもない面。

気に入った場所が傾斜地・斜面だった場合、あなたならどうしますか。

諦めるか、コスト増になる可能性も考慮しながら建築するか?

どのように傾斜地・斜面に家を建てるか、実例と共にお伝えしていきます。

傾斜している土地 

一般的に傾斜地や斜面と言われる土地は、建築基準法では纏めて「崖」とされています。

崖については、各地方自治体によって扱いが取り決めをされていますので土地購入前に詳細な検討が必要になります。

また、通称「がけ条例」と呼ばれる規制により、希望している間取りやデザイン、コストを達成できなくなる可能性
もあり注意が必要ですので、土地検討時は早めに建築士にご相談することをおススメいたします。

▶ <参考>過去Blog-傾斜地に家を建てる時の規制

▶ <参考>岡山県建築物等の制限に関する条例第3条(図解)

敷地ロケーション

この傾斜地は瀬戸内海を望む高台にあります。地元で中腹道と呼ばれる観光農園を目指す山腹の道路に面しており、
アスファルト面から30°の角度で斜面を5m下がった場所が計画地です。

北側道路に平行に細長い土地は、20年前までは果樹園として利用されていた場所でしたが、建築前は既に
耕作放棄地として原野となっていました。

しかし、元果樹園の土地なので日当たり良好、風通し抜群です。

なにより私を虜にしたのは、電線などに阻まれることなく瀬戸内海そして遠くは四国山脈までを見通す事の出来る景色でした。

インフラと規制の確認

気に入った土地を購入する前に、必ず実施しなければならないものが水道・電気などのインフラ設備、
法令・条例などの規制確認です。

インフラ設備
・水道管:前面道路に埋設あり
・下水道:下水道本管がないので浄化槽が必要
・下水放流先:前面道路の反対車線にある道路側溝
・ガス管:オール電化のため不要
・電気:前面道路の電柱から電線を引込可能

法規制(建築基準法除く)
・農地法:敷地は耕作放棄地であるが、農地として農業委員会に登録されている
・森林法:農地なので該当せず
・都市計画法:都市計画区域外で規制対象外
・宅地造成等規制法:規制区域に該当せず
・急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律:規制区域に該当せず
・埋蔵文化財:規制対象外
・がけ条例:規制対象外
・景観条例:規制対象外
・開発条例:規制対象外

この度の敷地では以上の通り確認しました。

傾斜地の購入

傾斜地や斜面といわれる敷地の表面が傾いている土地は市場に流通していることは多くありません。

眺望や日当たりなどのメリットも多いですが、商品化された住宅を建築するには不向きなため、土地
の価値が低いことがデメリットとなり不動産業界では積極的に取引されないことが原因に挙げられます。

では、どの様に購入まで辿り着くのか。

一番の近道は、地主様と直接交渉することです。

気に入る土地を見つけ、インフラや規制を確認して家づくりが可能であるかを判断したら、
土地地番から所有者を確認します。
所定の金額を納めれば、法務局によって保存されている登記簿謄本から所有者の氏名と住所
が閲覧可能できるので誰でも調査することができます。

ただし、傾斜地などの不動産価値がない土地だと相続登記を長年されていない場合があり、
所有者不明となっていることもあるので注意が必要です。

実例の場合も、相続が止まっており暗礁に乗りかかりましたが、相続費用を負担する事で
所有者を確定し、無事に土地購入まで進むことができました。

と言っても、ここまでの作業を専門知識なしで進めることは今後の家づくりに対してリスクを
高くするだけなので、気に入った地域を絞り込んだ段階で早めに専門家にご相談ください。

不動産業者にご相談するのも良いですが、傾斜地・斜面での建築可否の判断をできる建築士
にご相談することをおススメいたします。

傾斜地でのプランニング

自宅北側
傾斜地の購入が決まったら、いよいよ本格的なプランニングの開始です。

北側道路に平行に細長く5m程下がった斜面では、自ずと建物形状は道路に平行な長方形に決まってきます。
その中で地域環境に馴染ませながら、この場所の素晴らしさを如何に取り込むかを考えることが、今回の設計プロセスでした。

昔から眺望が良かったこの場所に圧迫感のある建物にならないよう配慮しつつ、コスト問題も解決するため、
敷地の半分を造成し一部を2階建てにして1階部分は柱だけで構成するピロティと呼ばれる型式を持つ形としました。

北側の道路面からは平屋建てが宙に浮いた様に見えています。

また斜面と隣家が近くにないことのロケーションを最大限に活かすため、内と外を緩やかに繋げながら
床面積よりも伸びやかにそして開放的に暮らせる間取りにしました。

傾斜地の家

玄関を貫くタイル壁、ダイニングからテラスへ続く塗り壁は内と外の境界を曖昧にし、空や日の光、影や風の音を
五感で捉えるための装置となり、日々移り変わっていく床や壁の表情、質感を経験できる場所となりました。

間取りは、キッチン・洗面・物干し・クロークを建物中央に集約し家事動線の短縮を図り、将来対応として間仕切り
増設や増築を考慮して、現状では扉の少ないフレキシブルな空間としています。

忘れてならないポイントがリビングです。
建物の軸から15°傾け、大きな窓から地元の花火大会を正面に観えるようにしています。
この傾斜地に居を構えた大きなポイントの一つが、この部屋に詰まっています。

家づくりの過程でポイントを外すことなく進むことが如何に重要であるか、花火の打上げ方向を見る度に確認させられます。

傾斜地に建てるコスト

5年に一度実施される国土交通省の令和元年度住宅市場動向調査報告書によると、土地購入を含む
家づくりにかかった総費用の全国平均は4,615 万円となるそうです。

建築費は全国平均で3,235万円、土地購入費が全国平均で1,353万円との調査結果が出ています。

では、斜面や傾斜地に建てる費用はどうなのか。

土地代:100万円
造成費:580万円
地盤補強費:250万円
本体工事費:2700万円
浄化槽費用:100万円(ポンプ付)
水道引込費:120万円
外構費用:150万円
諸費用:260万円

建築費が3330万円、土地関係費(土地代・造成費・地盤補強費)930万円で総費用が4260万円となりました。

建築費は全国平均並みで、土地費用が造成や地盤補強を合わせても全国平均の7割程度です。
あくまで平均値との比較で、土地形状による変動もありますが一般的な住宅地で建築することに比べ、
今回の実例ではコストダウンできたことになります。

傾斜地工事の注意点

傾斜地に家を建てる際の造成工事について、過去Blogで注意点をいくつかお伝えします。
しっかりした工事業者に依頼すれば問題ないことですが、知っていて損はないので気に留めておいてください。

・水みちについて
・盛土について
・切土について
・樹木の伐採、伐根について

▶ <参考>過去Blog-傾斜地に家を建てる方法

傾斜地に建てた家のメンテナンス

家を心地よく使用していく為には、メンテナンスが必須です。
傾斜地・斜面に建つ家をキレイに保つためには、一般的な住宅地にはない工程が発生します。

以下の点について注意しましょう。
・草刈り
・窓掃除
・経年変化

斜面の草刈り

斜面に限った話でなく、平地でも雑草が生えている可能性は十分ありますが、労力が段違いなので覚悟は必要です。

ポイントは小まめに草刈りを行うこと。草が生い茂る前は月に1、2度でも良いですが、盛夏を迎えるころ週1回は
行いたいものです。

草が伸びきる前に刈り取ることで、体感ではありますが労力は半分以下まで押えることができます。

窓掃除

傾斜地を活かした家づくりをした場合、地盤面から高い位置にくる窓が多くなります。
室内から窓を掃除できるように計画すると共に、開閉しない窓などで室内から清掃できなければ、外部から
伸縮式窓ワイパーを使用して掃除できるように設計する必要があります。

そう言った場合は、窓ワイパーやバケツ・ホースなどを外部に収納するスペースを設けることを忘れてはいけません。

経年変化

外部に面している部分、内部で使用している部分は年月の経過と共に表情を変えていきます。

室内であれば、一般的な場所に建つ住宅と何ら変わらず問題ありませんが、傾斜地に建つ家の屋外を
修繕・補修する場合にはひと手間掛かってしまいます。

土地が斜めになっているため、住宅街に建つ家よりも高所での作業が増えがちで、さらに地面が傾い
ているため一般的な脚立を使用した作業が不可能な場合もあります。

ちょっとした手直しをDIYする場合は、脚部分が調整式の脚立をご用意することをおススメします。

窓掃除と同様に、脚立やDIY道具の収納方法についても検討しておく必要があります。

まとめ

気に入った景色を楽しみながら暮らすにはどうしたらよいのか。

傾斜地・斜面に家を建てるための注意点についてお伝えすることで、素晴らしい景色と共に暮らす
ためのお手伝いをしたいと思います。

傾斜地に建つ家の実例である「牛窓の自邸」は、事務所併用住宅となっており随時見学が可能です。

景色の移り変わりを感じて頂きながら、表情のある家をご覧いただきたいと思います。
まずはご自身やご家族の理想の住まいについて、じっくりとお聞かせください。

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